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「アベノミクス選挙」後の課題

 先の総選挙で安倍自民党は文字通りの「圧勝」を収めた。この結果は何を象徴しているのだろうか。国民は一体この選挙で何を「選択」したのだろうか。

 一つには、与野党間(あるいは党内の)の政策論争が華やかに繰り広げられる政治よりも、安定政権による手堅い(と思われている)政治運営の選択である。これは端的に55年体制の長期安定政権への回帰志向と言ってよく、決して「保守」や「右派」の政治的価値観が勝利したのではないことは、個々の安倍政権の右派的な政策に対する批判的な世論調査結果からも、また今回の選挙における「次世代の党」の惨敗を見ても明らかである。

 もう一つは、「アベノミクスの是非」が争点となったように、中長期的な社会保障の強化よりも短期的な「景気」の問題を選択したことである。安倍首相は消費増税を先送りしたが、それは既に報道されている通り、(1)低所得高齢者給付金、(2)年金最低加入期間の短縮、(3)低所得者の介護保険料の軽減、(4)介護士や保育士の待遇改善等々、消費税を財源とした社会保障強化策を取りやめる、あるいは先送りすることを決断したという意味でもある(くらし☆解説 「消費増税延期 社会保障はどうなる?」http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/700/204120.html)。

 もちろん、増税による社会保障強化は大規模なものではなく、全体としては負担増や削減という批判を受けやすいものではあるが、少なくとも社会保障費のラディカルな抑制を引き起こす蓋然性の高い消費増税の先送りよりは、前向きな方向であることは間違いない。しかしこうした方向性は、自民党内からも野党からも全く打ち出されることはなく、むしろ「景気重視」の姿勢を全面的に押し出す道を選択し、またそれが有権者に支持される形となった。こうした、まず景気や経済成長があってこその福祉と言う考え方も、過去の自民党政権への回帰志向と言ってよいだろう。

 しかし以上の二つの「選択」には、明らかな限界がある。一つには、今の自民党にはかつてのような農村部や商店街のような安定した分厚い支持基盤はなく、潜在的には年金生活者を中心とする浮動票依存であることである。今の安倍政権の表面的な安定性は、景気後退や党内の派閥抗争で一挙に崩れ去るもろさを抱え込んでいる。かつては、自民党内の政策上の対立や政争は盛んに報道されていたが、今は懸命に押さえ込まれて全くニュースにならないように、もはや今の自民党は党内の意思不統一を鷹揚に許容できるほどの強さはなくなっている。

  もう一つの限界は、景気や経済成長は依然重要な課題であるとして、脱工業化・少子高齢化した今の日本では、バブル期以前の経済成長の復活などは、もはやあり得るものではないことである。先進諸国の成長率はせいぜい3%が限界であり、大部分の国民にとっては「言われてみないとわからない」レベルである。だから現実に安倍政権が直面しているように、たとえ景気浮揚や成長を実現し、それを世論にアピールしたとしても、必然的に「実感がない」という反発の声も盛り上がり、完全に逆効果になってしまうことになる。

 以上の限界に対する課題はどのようなものになるだろうか。まず前者に対しては、「政権担当能力の有無」という政策以前の問題が選挙の争点になってしまい、有権者にとって事実上選択肢がなくなる、というこうした状況を変えていくことが必要になる。そのためには、安倍政権の政策論に対する批判的な世論を、いかに草の根で組織化していくかということが課題になる。反貧困の運動や脱原発運動、ヘイトスピーチに対する「カウンター」の運動など、個々には必ずしも全面的に賛同できかねるものもあるが、2000年代後半以降に叢生した、これらの様々な左派的な社会運動を大事に育てて、民主主義の制度(特に政党制度)の中に組み込んでいくことが必要になる。

 後者に対しては、短期的な景気の動向に国民生活が過度に依存しない社会をどう構築するか、ということが課題になる。景気浮揚や経済成長はマクロな社会の再生産のために追求されるべき政治課題であり続けるとして、今の日本のように個々の国民が短期的な景気の動向を過度に心配して、増税延期による社会保障費の抑制や削減を甘受させられているような社会は、それ自体において歪んだものと言うべきであろう。

 事実、欧州の付加価値税は(早期に導入していたフランスを例外として)欧州全体が高い失業率と財政赤字に苦しんだ1970年代後半から80年代にかけて、急激に上昇してきたものである。こうした、短期的な景気悪化を甘受しながら(ただ当時はデフレではなくスタグフレーションであったことは考慮される必要がある)社会保障財政の強化を図ってきた欧州諸国の選択は、結果的に現在に至る「大きな政府」と「福祉国家」の社会を支えてきた、と評価することも可能である。

 目指すところは難しいことではなく、国民全員が政治に参加した、様々な可能性の中から主体的に選択を行った、と実感できるような民主的な社会をつくることである。今回の、参加や選択の余地ない「アベノミクス選挙」は、そうした当たり前の課題をあらためて浮き彫りにしたと言えるだろう。

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