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2014年11月

「大義なき選挙」に向けて

  「アベノミクスを支持するか否か」を争点とした総選挙が行われようとしている。当初から「大義なき選挙」などと呼ばれてきたが、それ以前の問題として、そもそも争点自体があまりに不適切という以上に無意味で不毛であると言わざるを得ない。

  一つには、 経済政策の成功・失敗というのは、5年10年単位という長期で評価を下すべきものである。2年間弱で安倍政権の経済政策の評価を判断するのは早すぎる。アメリカもようやく5年以上経ってゼロ金利解除が決定されたばかりであるが、それでも失業率はリーマンショック以前の水準には回復していない。オバマ政権は経済政策で着実に実績を残してきたと評価する人は多いが、それでも先の中間選挙で示されたように、アメリカ国民の多くは満足していないのが現状である。

 そして二つには、経済政策や税の問題はきわめて複雑で専門的である。テレビで行われている「わかりやすい解説」に満足している専門家はほとんど稀だろうし、言うまでもなく専門家同士でも意見の対立があり、反増税派が言うように消費増税が「国民生活の破綻」を招くかどうかなど、増税の影響以外の様々な条件を総合的に勘案しなければいけない問題も多い。こうした問題を素人の有権者の判断に委ねることは、そもそも無謀であり、容易にポピュリズムに陥ることになるだろう。

   では有権者が判断できる争点が存在していないのかと言うと、決してそうではない。それは「消費増税を取り止めることで、予定されていた社会保障の機能強化分の撤回や社会保障費の(今まで以上の)抑制を受け入れるか否か」である。
 
消費増税による税収はすべて年金、医療、子育てなど社会保障に充てると法律で決まっているため、再増税を先送りすると、来年度、社会保障サービスの充実に充てられるお金は約4500億円減る。このため、再増税の税収を前提とした施策の絞り込みが迫られている。年金では、再増税時に実施すると法律で決まっていた「弱者対策」が二つあった。

一つは、年金が少ない高齢者や障害者への給付金で、約790万人が対象。保険料を40年納めた人では、月5千円支給することになっていた。来年度は増税分から1900億円を充てる予定だった。

もう一つは、年金の受け取りに必要な保険料の支払期間を、いまの25年から10年に短くするものだ。無年金の人を減らす狙いで、来年度は75億円を充てることにしていた。政権幹部は20日、「年金の充実は無理だ」と年金の弱者対策は来年度に導入できないとの見通しを示し、財務省厚生労働省は見送りの方向で検討に入った。

http://digital.asahi.com/articles/ASGCN5WCGGCNULFA02B.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_ASGCN5WCGGCNULFA02B  
 
 
 この記事にもあるように、毎日の買い物の負担が増えることと、いざという時のセーフティネットがより弱体化することと、どちらが許容可能で貧困者や低所得者によってより負担が低い社会かという争点が、既に目の前に示されている。こうしたネガティヴな選択肢に不満を感じる人もいるだろうが、今の日本ではこうした形の選択肢しか(実現可能なものとしては)提示されていない、という現実から出発する以外にない。少なくとも、こうした争点であればほとんどの有権者は理解可能であり、この国の社会保障の方向性にとっても根本的で重要な争点であると言うことができる。
 
 しかし今のところ、こうした問題は悲惨なほど興味関心を持たれていない。それどころか、こうした争点をツイッター上で慎重に提示した福祉事業者が、アベノミクス支持者によって炎上させられるという騒ぎが起こっている。ツイッター上の真面目に取り上げるに値しない言いがかりや中傷とは言え、有権者が判断可能な争点が争点にならず、逆に素人が判断しようのない専門的な問題が争点になりやすいという、現在の日本の政策論争の問題を象徴的に示している。
 
 国内にある多様な利害対立を争点化し、政治的に組織化していくことは民主主義の基本である。「全国民の利益」を早急に語ろうとする人は多いが、そのような利益が簡単に確定できるとしたら、それはもはや民主主義の社会とは言えないだろう。今回のような、政権与党の経済政策に対する信任投票的な選挙というのは、独裁的な政治体制が民主主義を偽装するために実行しているそれと、意味合い的にはほとんど変わらない。
 
 しかし選挙になった以上、いずれにせよこれを日本の民主主義の深化へとつなげていくことが必要である。そのためには、「アベノミクスの是非」を問うという、首相と政権与党の争点に乗っかるのではなく、それとは別の争点を提示して、多様な利害関心を組織化していくことが、野党やマスメディアおよびネット上で発言力を持つ人々の責任である。

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