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市場競争下の「引き下げデモクラシー」 

 濱口桂一郎氏のブログでharuto氏という人がコメント欄に興味深いことを書いていた。

「引き下げデモクラシー」を現在主に提唱している、戦争を待望する元コンビニバイト、放送局勤務を経て現在大学院教授、メーカー勤務を経て人事コンサルタント、といった「男性」に共通するのは、「正社員経験がありその後何らかの理由により退職した」という「事実」ですね。その詳細をケーススタディとして分析することはアクティベーションを考えるうえでも必要ではないかと思います。

思うにこの「男性」たちは「自分と自分が所属していた組織とのあいだの軋轢、確執」を「自己対象化」しながら考えることができていない。「個人的な怨恨」と「社会的な問題」の区別がついてない。なので、「引き下げ」が自己目的化する。

こうした「男性」たちの存在が逆に、労働組合による労使間の関係調整の必要性を照射しているとも言えますね。この「男性」たちはみんな「雇用の流動化のためには労働組合は不要」だと考えているわけですが。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/11/post-4601.html

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 「引き下げデモクラシー」というのは、一言で言うと、旧来の「日本型福祉」を享受できている層がますます縮小している傾向にあるにも関わらず、「日本型福祉」を前提とした社会の仕組みや人々の意識が強固に残っているために起こっている、と理解することができる。

 だから、「引き下げデモクラシー」にはまりやすいのは、自分も「日本型福祉」を享受できるはずだったのにできなかった、あるいは期待ほどではなかったという不満や失望感を潜在的に抱えている人たちである。

 これは若い世代の非正規雇用層だけではなく、高齢の年金生活者層も含まれると考える必要がある。というのは、年金生活者層は社会保障制度の将来に不安を感じずにはいられないような報道を日々耳にしているだけではなく、息子や娘が自分たちの世代のように順調に就職・結婚することなく、不安定で見通しの立たない生活を送っていることが多いためである。むしろ、「こんなはずではなかったのに」という想いは、「黄金時代」をリアルタイムで知っているこの世代のほうにこそ強いかもしれない。

 この「引き下げデモクラシー」 は、しばしば億単位の年収を稼いでいる経済人の規制緩和論と共振しあうことがある。これは不思議なことでもなんでもなく、戦前・戦時の「引き下げデモクラシー」が軍隊の平等性をベースにしていたのに対して、現在の「引き下げデモクラシー」 は市場における競争とリスクの平等性をベースにしているためである。

 つまり、前者では「引き下げ」の対象が、町内会の防火訓練への参加を渋るような特権的な富裕層であったのに対して、後者では解雇や賃下げのリスクもない(と少なくとも思われている)安定した正規の社員・職員に地位に収まっている旧中間層(特に公務員)に向けられている。逆に言うと、経済的な強者である企業経営者に非難の目がさほど強く向けられないのは、彼らが市場競争の「最前線で戦っている」ためである。だからこの結果として、「引き下げデモクラシー」 を求めて経済格差がかえって強まる、という皮肉な現象が起こっているわけである。

 小泉・安部政権時代の「構造改革」を依然として高く評価する規制緩和論者は、民主党の分配政策などを「社会主義的」だと非難することがある。しかし、私に言わせれば、彼らが公務員や正社員層の「既得権」を批判するときの口調にこそ、「社会主義的」なものを強く感じる。彼らがどこまで意図しているかはともかく、それは事実として、明らかに「引き下げデモクラシー」 に加担しているのである。

 税収の2倍以上の予算を組む民主党政権に対して、「税収に見合った政策を立てるべきだ」と批判している経済学者の主張を新聞で読んだ。専門家としてはそのように言うしかないのだろうが、これは悪くすると厳しい財政のもとで国民は文句も言わず我慢するべきだという、「引き下げデモクラシー」 を推し進めるものでしかなくなる。むしろ、民主党政権の経済政策を批判すること自体は必要であるにしても、税制改革や経済政策などによって税収を増やすことはいくらでも可能である、という前向きな議論を構築していくことを専門家には期待したい。

参考: 現代日本の引き下げデモクラシー http://maishuhyouron.cocolog-nifty.com/blog/2009/08/post-85a6.html

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