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北欧モデルは日本に適当なのか

再び勝間和代氏ネタであるが、彼女が毎日jpで行っている「クロストーク」における読者のベストアンサーから。

 貧困率が世界最下位の北欧の国、デンマークで働いている者です。
 
 デンマークでは、法人税を一律25%と低く据え置く一方で、所得税は最低でも45%、最高で67%と世界でも最も高い水準に保たれています。課税最低限も低く置かれているため、短時間労働者も含めてほぼすべての労働者が45%以上の所得税を支払っています。
 
 課税は世帯単位ではなく個人単位で、配偶者控除や扶養控除などの世帯を前提にした控除もありません。この個人単位の課税は、労働参加率が高い(共働き率は90%以上)ことにより可能になっています。
 
 消費税は一律25%で食品や子供用品などに対する減免もありません。新車に対する課税(本体価格の190%)、ガソリン税、たばこ税なども他の先進国に比べ非常に高い水準にあります。
 
 健康保険料や年金、失業保険は基本的に税金として徴収されているため、これらへの別立てでの支出はごく限られています。
 
 例外なく国民から広く税金を徴収し、これを財源に積極的に政府が所得の再分配を行っているため、人々の政治に対する関心は非常に高く、国政選挙の投票率は常に90%近くまで達します。ただし、減税・増税といった単純な議論が票を分けることはなく、再分配の方法を含めた社会システム全体に人々の関心が集まります。
 
 シンクタンクなどの調査で、毎年のようにデンマークは「世界一幸福度の高い国」に選ばれますが、積極的な所得の再分配を推し進める大きな政府の存在が国民の満足度に貢献しているのは紛れも無い事実だと実感しています。

http://mainichi.jp/select/biz/katsuma/crosstalk/2009/11/post-31.html#comments

 世界的な流れとして、これからは北欧およびオランダやデンマークなどにおける「ワークシェア」や「フレクシキュリティ」が雇用・福祉のモデルになっていくであろうこと、そしてそれが現時点で比較的に望ましいものであることは、まったく否定しない。

 これを一応スウェーデンなどを含めて便宜的に「北欧モデル」と呼んでおくことにするが、ただやはり、日本に適用するにはあまりに留保条件が多すぎるように思う。よく言われるのは国のサイズの違いということであるが、むしろより重要なのは以下の二点である。

 第一に、労働組合の組織率が非常に高く、経済政策に対する発言力も総じて強いことである。北欧モデルにおける労働者組織は、賃金のベースアップを求めるだけではなく、場合によっては賃下げや増税政策に全労働者を従わせる力を持っている。「ワークシェア」や「フレクシキュリティ」が可能になっているのは、労働組合の組織力の強さ抜きには語れない。

 それに対して日本では、労働組合の組織率が低い上に、世間からは「既得権益層」と見られがちで、非正規を含めた広範な労働者の利害を代表しているとは思われていない。そして労働組合が出来ることも、せいぜい賃金の微々たるベースアップでしかない。このように、経営者に比べて労働者団体の発言力や正統性が圧倒的に弱い条件で「北欧モデル」を導入すれば、「ワークシェア」や「フレクシキュリティ」が経営者側による一方的な賃下げを招くだけではなく、労働者の側にも劣悪な条件で働かされるよりも国の福祉に頼って細々と生きていくほうがいい、という態度を蔓延させ、結果として財政を崩壊させることになるだろう。「北欧モデル」がうまくいっているとしたら、それは安易な賃下げや解雇を労働者組織が抑制しているからである。

 第二に、そもそも公的サービスの質や、それに対する国民の期待値もあまり高くないことである。北欧在住の日本人のブログを読むと、行政の対応は日本に比べても遅く、病院も行ったその日に受診できるということは基本的にないなど、「間違いなく日本より不便」であると断言している(http://plaza.rakuten.co.jp/gaksuzuki34/diary/200712300001/)。官僚や医者も、一部のエリートを除けば、日本に比べても社会的な威信は低いと言われている。

 要するに北欧モデルは、あくまで教育や医療などの基本的な生活コストについての心配がいらないかわりに、サービスの質を高めようという意欲は無に等しく、また国民の多くも特に期待していないのである。それに対して、行政や病院の懇切丁寧な対応を当然視している日本人が、とくに国際的にみて少ない公務員や医者の人数を相当に劇的に増やすことなしに北欧モデルを導入すれば、一体どうなるだろうか。膨大な要求やクレームによって、現場の負担がとても耐えられないものになることが、容易に予想されるだろう。

 つまり、北欧モデルを日本に導入するためには、増税や行政・医療の従事者の人員増加はもちろんのことであるが、労働組合の組織力を高めることと、そして行政や病院など公的サービスへの期待値を下げることが必要になる。「ワークシェア」「フレクシキュリティ」を称揚する人のなかには、労働組合をやたらに「既得権益者」扱いして批判したり、「官僚組織の無駄」を大声で言い立てるような人もいる。まったくの支離滅裂としか言いようのない議論だが、いまの民主党政権と日本の世論は、全体としてこの方向に流れているように思われる。

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コメント

お読みさせていただきました。私は労働組合を批判する一人ではありますが、それは社内労働組合であるからであるからです。
その点の批判なしに労働組合批判を批判するのは暴論かと。

投稿: ヤマモトヤマ | 2010年2月11日 (木) 15時31分

私も今の日本の労組のあり方には全体として否定的です。しかし、強力な労組を抜きにした雇用の流動化が悲惨な結果をもたらすという、当然の事態を想定しない議論にはさらに否定的です。そして、今のところ組織力も社会的な発言力も弱い労組に対して、景気の足を引っ張っている元凶のような議論も散見されますが、それは右派の日教組批判と同じで、それ自体ナンセンスだと思います。ここは濱口桂一郎氏と同じですが、今の労組が醜悪なことは確かだとしても、それを現実の前提にして雇用の問題を考えていくべきです。いきなり北欧モデルにはジャンプできないわけです。

投稿: にょしん | 2010年2月16日 (火) 18時02分

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