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「社会学的啓蒙」の黄昏

日本の難点 (幻冬舎新書)
Book
日本の難点 (幻冬舎新書)
著者 宮台 真司
販売元 幻冬舎
価格(税込) ¥ 840

 前にも言及した、著名な社会学者による新書だが、アマゾンのレビューで批判的なものが多い。個々の論点はそんなに間違ったことを言っているわけではない。明らかにこれは文体の問題である。そういう意味で、宮台氏も時代の空気からズレはじめたんだなということをつくづく感じる。

 宮台氏の頭の中には、どこかに「知の最先端」の世界があって、それを知らないと「恥ずかしいこと」になっているらしい。しかし今は、こういう読者に対する無知への劣等感や強迫観念を動員して人を説得しようとする手法自体が、もはや完全に効力を失っていると考えるべきである。むしろ、高度な知の世界の憧れが完全に消失してしまったどころか、それを顕示すること自体が非常に「恥ずかしい」ことになっている。宮台氏ともあろう人が、そのことに全く気づいていないのが正直がっかりである。

 レビューで「わかった上での戦略的振る舞い」という擁護があったが、そもそも今はそういう戦略自体が一部の「宮台ファン」以外に全く理解されない、ということが全然わかっていない。フェミニスト学者で有名な上野千鶴子氏もそうだが、彼女も「わかった上での戦略的振る舞い」を繰り出す人である。しかし、こういう戦略が世の中の支配的な空気への「抗い」を意味していたような時代は、既に終わったのである。実際、宮台さんは既に中堅の社会学者だし、上野氏に至ってはもはや若手が仰ぎ見るような「重鎮」である。彼らの「戦略的振る舞い」は、それを理解できない若い世代に抑圧と疎外感を与えるだけでしかない。

 断っておくと、昔はそれがある程度は通用していた。例えば90年代半ばに流行した「援助交際」の話題では、宮台さんが挑発的な議論をすると、予期したように保守系の人が大挙して素朴な道徳論で応答してきたものである。しかし今は、アマゾンのレビューで批判的な投稿を見れば分かるとおり、そういう素朴な反応は一つもなく、ほとんどが彼の文体それ自体に対する嫌悪感の表明になっている。そして好意的なレビューのほとんどは、長年来の「宮台ファン」とおぼしき人である。彼の「戦略的振る舞い」は、もはや内輪の狭い範囲でしか通用していないことは明らかである。そして、それでも構わないという開き直りが、文章のあちこちに透けて見える。思い起こせば、上野氏の『お一人様の老後』に対する批判と、それに対する彼女の態度もこれと非常によく似ていたものがあった。

 もともと「啓蒙」というと哲学であり、経済学が担ってきたのだが、90年代以降に宮台氏や上野氏のような社会学者が担うようになっていったという経緯がある。しかし彼らの「社会学的啓蒙」の戦略は今のところ上手くいっていない。彼らの言っていることは要するに、「社会がこう変化しているのだがら、それに応じて人間の意識もこう変わらなければならない」というものである。もしこれを「社会学的啓蒙」と言うのであれば(たぶんそうではないと個人的には考えたいのだが)、黄昏に入っていることは間違いないようである。

 啓蒙主義というより「啓蒙」を前面に出すという文体自体が、知識界全体で完全に衰退し、それ以上に読者から敬遠されるようになっている。ただし、主流派経済学の「経済学的啓蒙」については、批判の洪水を浴びながら何故かしぶとく生き残っているというか、むしろ2000年代以降に元気になっている感じがするのが不思議である。

社会学ついでに。

【正論】社会学者・加藤秀俊 外国人に「働いてもらう」不思議http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/090806/plc0908060356000-n3.htm

これは加藤氏がひどいと言うよりも、産経新聞はちゃんとした現役の社会学者にアクセスすべき。新聞記者が社会学を知らないのは当然だとしても、その学会の中心で何が議論されているかを知っている人か否かくらいは、見分けがつかなければならない。

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