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地方分権論批判

前回の本はまだ読めていないので・・。「地方分権」について。

90年代以降「地方分権」という言葉がメディア上で大きく語られるようになり、小泉政権時代に地方交付税の削減や財源移譲などの「三位一体」改革が進められたが、むしろ財源の厳しさはますます強まるばかりで、東京資本の大型SCやコンビニ店が地方の風景を埋め尽くして地元の商店が壊滅するなど、中央集権が以前よりもいっそう強まった印象がある。「三位一体」改革は財源移譲の面で不十分だったという批判もあるが、いずれにしても「地方分権」が政策を正当化するためのキーワードとして大きな力を持ち続けていることは間違いない。

ここ最近、「地方分権」がタレント出身の首長によってややポピュリスティックに語られるなど、本来の趣旨をかなり逸脱しているような現象も見られようになっている。ここであらためて、地方分権をどうして進めなければならないのか、という基本的な問題に立ち返ってみる必要があるだろう。

地方分権を必要とする第一の理由は、国家の財政規模が膨大なものになり、予算の配分を中央政府主導で決めることが能力的に困難になったことである。たとえば、年金制度が整備・拡大しつつあった時代の福祉行政は中央集権でよかったが、完備されて受給者が増大し、しかも社会の変化に合わせた柔軟な制度運用が求められるようになると、中央官庁だけで業務に対応することはとんど不可能になった。

第二の理由は、せいぜい2%が上限の超低成長時代になり、中央政府による公共事業政策が非効率になったことである。つまり、かつてのように「新幹線の駅ができる→人口と投資が増える→雇用が増える」といった拡大型循環が困難になって、少なくとも建設費用を回収できるほどの効果はなくなり、膨大な財政赤字の原因となっているのである。そのため、公共事業が必要であるにしても、地方の実情に即して行わなければ上手くいかなくなった。

第三にそれとも関わるが、高度成長時代のような国家全体で共有される目標が消失し、地方の複雑で多様なニーズに応じた政治が必要とされるようになったことである。特に、福祉事業など住民に密着した公共サービスのニーズは、地方分権的に行ったほうがはるかに効率的でである。

以上のように、地方分権が必要であることに基本的に異論はない。問題はその方法であり、世論に訴えるための論法である。この点において、地方分権論者の主張は依然として中央政府批判に傾きすぎている。そして抽象理念的な民主主義の話が多すぎる。言っていることは基本的に正しいが、聞いていると地元のことよりも中央省庁・中央政界のことにしか関心がないのではないか、と違和感を覚えることがままある。実際、地方分権を唱えている「改革派知事」というのは、退任後に地元に残っていることが少ないように、生活の基盤そのものは東京にあることが少なくない。

経済だけではなく、教育や医療・介護の問題などにおいて、地方が直面している困難は膨大にあるはずである。そして、その多くは単純に財源の問題であったりする。この切実で単純な問題から取り組みはじめるというのが「地方分権」の第一歩だと個人的には思うのだが、地方分権論者は、いきなり霞ヶ関批判や「脱中央」の主張をする。それはやはりおかしいのではないか。むしろ中央集権でも何でもいいから、地元の病院を存続させたるための手立てを打つのが、地方自治体の首長の責務というものだろう。

そもそも責務という以前に、地元住民の生活や生存に相対的に無関心のままであり続ける、理念先行型の地方分権が上手くいくとは決して思えないのである。無関心ではないにしても、彼らの地方自治の理念のなかに、生活や生存の問題がうまく位置づけられていないように感じるのである。中央政府がよけいな口出しをせず、地方分権が進めば自ずと地方の問題が解決するかのような口ぶりがあるが、やはりそれは違うのではないだろうか。

地方分権の理念はもちろんよい。しかし、地元住民の生活の経験や困難のなかから出てきた理念でなければ、それが実効的な形で定着することはない。このことを理解しないと、小泉政権時代の「三位一体」改革のように、気づいてみたら地方分権の名の下に財源が減っていただけ、ということになりがちである。「脱中央」とセットで地方分権を語ることは、ある程度は今でも必要かもしれないが、そろそろそれ以上のことを語ってほしいものだと思う。

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